松風ストリートでお店を営んでいる人や、近辺の気になる方々にお話を聞いて記事にする企画、『松風トーク』。
第2回となる今回は創考房の目黒 充恭(めぐろ みつやす)さんと奥様の目黒 侯仁子さん(めぐろ くにこ)さんをお訪ねしました。
創考房は、ボタンカフェからNoi hairへと歩みを進めたさらに30mほど先に位置しています。
毎日営業を行っているわけではありませんが、季節に合わせた展示やイベントを定期的に行っています。
長く続いている、けれども、どこかベールに包まれているお店。松風ストリート編集部が創考房へインタビューに伺いました。
根幹はモノづくりの楽しさを知ってほしい
ーこんにちは、まずは創考房のことを知らない方に向けて、どんな場所なのか教えてください。
いきなり混乱させてしまうかもしれませんが、創考房っていうのは実はこの場所のことだけではないんです。大きく3つの機能があって、その総称が創考房です。
私(旦那さん)は空間デザイナーとして、企業向けに図面を書いたり、空間デザインの仕事をしています。そうした空間デザイン屋としての顔が1つ目です。
2つ目はモノづくり。家内がhue-designというブランド名でスカーフなどの制作をしています。染物は手作業で、すべて一点物の作品です。作品はオンラインショップやこのスペースで販売しています。
そして、このスペースです。私も家内もモノづくりをしているものですから、ちいさいスペースですけど、工夫次第でおもしろいことができることを知ってほしくて始めました。普段、私は企業向けの仕事をしているので、お店は主に家内が切り盛りしてます。
お店でも、ギャラリーでもない、ショールーム
ーこのスペースはいつから始めたんですか?
今のように展示や販売ができるスペースとして始めたのは2015年ですね。
空間デザインをしていることもあって、空間の使い方には工夫を凝らしています。空間の仕事というのは、モノを引き立てるためにどのような配置をしたら、商品がよりよく見えるかを考えて形にする仕事です。
コロナ前は作家さんをお招きして、展示や企画展を行っていました。展示ごとに見せる商品が変わったとしても、モノがより良く見える配置にできるよう、レイアウトが自由に変えられる空間をつくっています。
見てお分かりの通り、すごく狭いスペースなんです(約4.5畳のスペース)。でも、ちいさくても出来ることやちいさいからこそできることもある。そうしたモノづくりの楽しさを知ってほしいんです。
ーこのスペースだけ見ても、商品のディスプレイボードや壁のフックなど、いたる所に工夫がありますよね。
(穴のある黒板ボードを使うことで、チョークアートやディスプレイもできる壁。戸になっていて、中には掃除道具や備品が隠れている。)
(自由に棚を組み替えられるような壁。展示の空間を自由にレイアウトできる。)
狭くても、工夫すれば良い空間ができるんです。あとは空間デザインという仕事柄、商品もそうですけど、創考房のこの空間の空気自体も感じてもらえたら嬉しいですよね。良い空気が流れているところには、空間の工夫が隠れているんです。それも含めて、このスペースを楽しんでいただけたらと思います。
あと、ここをお店と思ってやっていなくて、利益とは関係ないところでやってます。だから、お店やギャラリーというよりは、ショールームにイメージは近いです。ショールームっていきなりモノを買うわけではないじゃないですか。まずは空気を感じるために来てもらう場所ですよね。
このスペースも、デザインやモノづくりが好きな人が来て、「こんなスペースの活用方法があるのか!」とか「このアイテムおもしろい!」と、アイデアの種を持ち帰ってもらえるようなところにしたいですね。
狭いなりに足掻いてやっていけたらと思います。
コンセプトは「成長する家づくり」
ー松風町にこのスペース(ショールーム)を構えたのはどういった流れだったんですか?
もともとは自宅を探していたんです。家内の実家が平塚だったこともあり、子供が生まれたのを機に、約20年ほど前に龍城ヶ丘(松風町の隣の地域)のマンションに越してきました。
2人子供がいたのですが、その時、狭いマンションに学習机が入らなくてですね。子供の成長に合わせて育つ机というものをDIYしていました。今の場所に対する考え方にも繋がっていますね。
その後、2004年から自宅兼ワークスペースを探して、2010年末にこの場所をようやく見つけたのですが、当時建っていた家の2階に上がった時、公園が見える景色が妙に良かったんですよね。それが決め手となって松風町に引っ越すことを決めました。
駅からもほどよく近くて、大きい通りに面しているけど閑静な住宅街。すごく良い場所ですよね。お店のことを考えるともう少し賑やかになってほしいなと思うこともありますけど(笑)。
ーそのときからこのスペースの使い方は決まっていたのでしょうか?
このスペース自体は2015年から始めましたね。なので、自宅として使いはじめて4年ほど経ってからでした。この家には実はコンセプトがあります。マンション時代に、子どもの成長に合わせて机をつくったのですが、この家もそれにならって「成長する家づくり」をコンセプトに設計しました。
建物自体は自分たちでデザインをして、新しい自宅ができたのが2011年ごろの話です。展示スペースは、もともと空間デザインの打ち合わせの場所や資料を置く場所にする予定だったのですが、空間の使い方もこのような場所へと成長したという感じですかね。
モノづくりの原点
ー机に限らず家すらも、自分たちで創ってしまうという。すごいですよね。モノづくりや工夫がお好きだなという印象があるのですが、そのルーツはなんだったんですか??
なんでしょうね。でも、小さい時によくお菓子の箱とかをつかって、モノづくりしてましたよ。私は新潟が出身なんだけれど、たぶん外で遊ぶところもそこまでなくて。兄は自由に外に出歩いてたけど、兄についていくこともできなくて、家の中によく篭ってたね。
それでも楽しもうってことで、当時は合体もののロボットが好きだったんです。マジンガーZだったり、ゲッターロボが好きで、その模型のようなものをつくってました。
ーそこから、どんなキャリアを進んできたんですか?
その後は美大に入りました。そのとき流行りのディスコで、照明を繋ぐバイトをしていました。みんなが楽しく踊ってる中、自分は汗だくで裏方仕事をしているわけです(笑)。
でも、照明ひとつで空間がガラリと変わることがおもしろいなと思いました。
あとは小さい時からディズニーランドのようなテーマパークを創りたかったというのもあります。ワクワクやドキドキを届けられる空間が良いなと思っていたんです。
当時、電飾の照明デザイナーとして世界的に有名になった石井幹子さんという方がいました。その方が音楽家の坂本龍一さんと一緒にやっていた「花博の電力館」という音と光の空間を創っていたことに憧れて、花博に関わっていた会社に就職をしました。
それから独立して、今は図面を書く仕事を中心に空間デザイン・モノ創りに携わっています。
モノづくりの楽しさを伝えるワークショップ
ーこれからの展望はありますか?
モノづくりの楽しさを知ってもらいたくて創考房をつくったので、もっと発展させていきたいと思っています。今は1階の一部のスペースだけしか使っていませんが、この奥にもスペースはあるので、1階全体を使って何かしていきたいです。
ー松風ストリート編集部でも子ども向けのイベントをしたいメンバーがいるので、一緒にワークショップしても良いかもしれないですね。
そういうのもやりたいですね。昔、家内も美術講師をやっていて、何かしたそうだし。
(クニコさん)
ぜひやりたいですね。特に子どもは想像力が豊かなので、見ていて驚かされることがたくさんありますし、大人側も楽しいですよね。そうした機会を積み重ねることで、地域の中でモノづくりのキッカケになったり、発信できる場所になれたら嬉しいです。
もしワークショップをご一緒できるなら、参加者も含めてみんなでつくりあげることができたら良いですよね。誰かが「教える」というスタンスになると、あたかも正解があるようで、楽しむことができないので。
個性を出しながら、モノづくりを楽しいと思ってもらえるような機会にできたら良いなと思います。やっぱりモノづくりの楽しさを色んな人に知って欲しいし、モノづくりに正解はないので。
ーモノづくりのワークショップ、ぜひ体験したいです!他にクニコさんがこのスペースについて思うことはありますか?
(クニコさん)
あとは先にも話しましたが、ここはお店というよりはもっとラフなスペースと思ってもらえたら良いなあと思います。お金をたくさん稼ぐためにと思ってやってはいないので、気軽にお茶を飲みにきて、モノづくりの空気に触れて欲しいですね。
ー最後に伝えたいことはありますか?
成長する家づくりから発展して、今のスペースに繋がってきています。成長し続けるということはこれからも意識したいですね。そのためにも急いで何かをするというよりも、楽しみながら、ゆっくり育くんでいくことが大事だと思います。
このスペースもゆっくりではありながらも、「こんな考え方をしている人がいるんだ」とか「狭いところでも利活用してる」とか、思ってもらって、モノづくりの楽しさを知ってもらえる場所にしたいです。
開いている時には気軽に入っていただけたらと思います。
編集後記
インタビューを終えると、「成長する家」も見学させてもらえました。ちいさなおみせの奥にある旦那さんの作業スペース、そして居住空間。
そこには数々の工夫が。玄関入ってすぐのハンガーラックやバルコニーのBBQスペース、大きなプロジェクターなど。至る所にモノづくりの工夫が繰り広げられていて、編集部一同、秘密基地に来た感覚で興奮していました。
「なんか良い」の裏側には理由がある。
インタビュー中に目黒さんがおっしゃっていたことが、お家にも現れていました。そして、松風町全体を見た時に、この町に流れている”なんか良い”雰囲気は、この町を構成しているお店や住人がいてこそなんだろう、そんなことを思いました。
ゆっくり、楽しく、松風ストリートを続けながら、この町の良い雰囲気をふわりと皆さんのもとにお届けできたら嬉しいです。
ぜひ、看板が出ている時には創考房さんに、足を運んでみてください。