松風ストリートでお店を営んでいる人や、近辺の気になる方々にお話を聞いて記事にする企画、『松風トーク』。
第3回のゲストはぶどう畑のさんぽ道を営む高梨 恭子(たかなし きょうこ)さん。改装などに伴い、しばらくお休み期間が続いていたお店ですが、これから少しずつ営業を増やすのだそう。
恭子さんにお店へのこだわりやはじまるきっかけについてお話していただきました。
自分が落ち着ける第三の場所が欲しかった
ーまずはお店のことについて、教えてもらっても良いでしょうか?
はい、ぶどう畑のさんぽ道はいかす農園さんのオーガニック野菜とお出汁を使ったお料理に加え、ワインを楽しんでいただけるお店です。私はものすごくわんちゃんが好きで、お店はペットもOKなので、ゆっくりくつろげる場所でわんちゃんと一緒に過ごす時間を楽しんでもらえます。
そもそも、大人がゆっくりできるスペースがあまりにも少ないことに、以前から物足りなさを感じていました。私には2人子どもがいるのですが、子育て期間は家庭と職場以外に行くところがあまりなかったんです。カフェでも良いけど、ざわざわしているところが多く、なかなか落ち着かなくて。
私自身がもっとゆっくりできるところが欲しくて、リセットできる空間としてこの場所をつくりました。
(看板犬のキキちゃん)
ーなるほど、普段使うときにもゆっくりできる場所だなと思ってましたが、そういう空間を目指していたからなんですね。リラックスできる空気感をつくるにあたって、こだわっていることはありますか?
すぐ分かるところでいうと、空間は広くとってます。だから窮屈にならず、家とは少し違った形でリラックスできる空間になっているかなと思います。
空間デザインはケムリデザインさんというデザイン設計会社に、施工は村上建設さんという設計会社にお願いして、私のいろんなワガママを叶えてくれました。カジュアルすぎず、でもリラックスできる。ワイワイできる場所というより、どちらかというと素でいられる家に近い場所を目指しました。
空間にはパワーがあって、人は自分がどういう空間にいるかでモチベーションが変わってくるものだと思います。
ひとりで考え事をしたり、気持ちをほっと落ち着けたいときに行きたいと思ってもらえる空間にできたら嬉しいですし、もちろんご家族やお友達と来ていただくのも大歓迎です。
怖いことがあっても、後悔しない人生を
ー恭子さんは元から飲食店で働いていたんですか?
実は飲食店で働いた経験は大学時代にカフェでアルバイトをしていたくらいです。大学を卒業してからは百貨店やアパレルでしばらく働き、アパレル時代には店長も経験したのですが、結婚や出産を機に辞めました。子育てを始めると、付き合う人間関係も変わって、色んなコミュニティや考え方に触れましたね。
その後は子どもが病気になった経験から、病院に興味が湧いたので、医療事務の資格をとって、病院で働いたこともありました。
そのとき、家庭と職場の往復を繰り返す日々が続いたんです。その頃から、どんな年齢の方も、ひとりで気持ちをリセットできる居場所が必要だと思いはじめました。
ーいつごろ独立して、お店をはじめたのでしょうか?
独立したのは49歳のときです。このタイミングだったのには、いくつか理由がありました。一つ目は子育てが落ち着いてきたこと。時間にも余裕ができたので、何かやりたいという気持ちが強くなりました。
二つ目は経済的にも独立したいという気持ちがあったことです。家族も自営業で、それぞれが自分の力で稼いでいるのですが、いくつになっても仕事が出来ることにも魅力を感じ、私も自分で稼げることを目指しました。
三つ目は組織の中で働くと、自分が正しいと思うことができないことに、我慢できない自分がいたというか。だから、自分で責任を取ることで、自分が良いと思う世界観をつくりたいと思いました。
ー飲食で働いた経験もない中で、怖くなかったんですか??
もちろん怖いことはありますよ。でも、向かいたい先が明確で、そこに向かうときに表れる試練は乗り越えるしかありません。
基本的には乗り越えられるから試練がやってくると思うので、大変なことがあっても自分にはできると信じています。
独立してからも思いますが、だいたいのことはどうにかなるんです。お金がなければ、仕事を選ばず働けばいいだけだし、試験が怖いなら勉強すればいいだけ。
本当にどうしようもないことに比べたら、元気な身体があるうちは大丈夫です。
あーすればよかったと思ったまま一生を終えたくないですし、もう一度同じ人生を過ごしたいと思う人生にできるかどうかは意識しているかもしれません。
素敵なワインを広めたい
ーチャレンジを恐れず、パワフルな生き方をしているように感じましたが、今後の展望はありますか?
今は飲食店がメインではありますが、ワインの小売をやりたいと思っています。ぶどうという果物自体も、ぶどう畑の空気も大好きなんです。
昔、旅行でフランスのワイン畑に行きました。正直乗り気ではなかったのですが、一緒に行くメンバーについていく形で渋々(笑)。
でも、実際行ってみると、畑の美しさと空気感の良さに魅了されてしまって。スタディツアーだったのですが、途中からは最前列で熱心にメモを取る人になってました。
そのときから、いつかワインに関わる仕事がしたいという気持ちは続いていたんです。つくることにも興味はあるのですが、良いワインはたくさんあるので、多くの人に知ってもらう役割を担えたらと思います。
今までは1階だけで飲食店をしていたのですが、2階も使ってワインセラーとラウンジをつくります。もっとリラックスしてもらえるようなスペースにしていくので、改装後(2022年7月ごろを予定)を楽しみにしていてください。
松風町のほどよい距離感
ー改めて空間へのこだわりを感じたのですが、松風町にお店を構えたのはどうしてだったんですか?
ほどよい距離感が良いなと思って、ここに決めました。
小さい頃は田舎で育ったので、地域との密な関係性があったのですが、プライベートが筒抜けというのが嫌でした。
その後、20代の多くは東京都の墨田区に住みました。
20代前半のころは若くて好奇心旺盛だったので、色んな人に会いに行ったのですが、20代半ばになってくると、新しい人に会うことに疲れてしまって。
住んでいる環境を振り返ったときに「人はたくさんいるのに、知り合いはいないんだ」と感じて、そのことに虚しさを抱きました。
田舎のぬくもりと都会の刺激、その両方が良い混じり方をしているのが平塚でした。
いろんな人が交わる場所に
ーぶどう畑のさんぽ道として、松風ストリートを絡めてやりたいことはありますか?(恭子さんは松風ストリートの発起人でもあります。)
松風ストリートが機能してくると、色んな人がここの通りのお店に立ち寄ることが増えると思っています。松風ストリートを通して、たまたま知ったお店を好きになってくれたら、とても嬉しいですね。
やがては世界中の人が松風ストリートやそこにあるお店を通じて、この通りに遊びに来てくれたら最高です。
その先に、姉妹都市的な場所ができても良いと思いますし、そうした都市と交流や行き来ができたら良いなと思います。
小学生のとき世界人口を習うじゃないですか。70億人もの人が地球にいると知ったときに「1日1人は友達になっても365人、一生かけても全世界の人とは話すことができないんだ」と思ったことを今でも覚えています。
同じような空気感が好きな人たちと交流できたら楽しいはずですし、そうした関わりの中に自分の居場所もできたらとても幸せだと思います。
だから、お店も松風ストリートも交流が生まれる場所にできると良いですね。そのためにも、まずは町の方にぜひ来ていただけたら嬉しいです。
編集後記
恭子さんのエネルギーの根底にある「どうにもならない試練はない」という価値観が強く印象に残りました。
ぶどう畑のさんぽ道の空気感は、どんな試練にも動じないポジティブな心構えと、自分の気持ちに忠実な恭子さんだからこそ醸し出すことができているのだと思います。お店のいちファンとしても、ルーツを知ることができて、楽しい時間でした。
これからも営業はマイペースに進めることと思いますが、タイミングが合う方はぜひ足を運んでみてください。
お店の情報
店舗名:ぶどう畑のさんぽ道
定休日:月曜日・火曜日
ランチ:11:30~14:00
ディナー:18:00~22:00
※営業日時は予告なく変更となる可能性があります。公式SNSをご確認ください。
https://www.instagram.com/budousanpo_9_12/